宇宙持続可能性に向けて大きな変化か? NASAの新しい軌道上デブリ低減標準プラクティスに関する考察

2020年1月28日配信 ブログに投稿

グローバル宇宙政策担当バイスプレジデント チャリティー・ウィーデン

2019年12月、数ヶ月にわたる省庁間の審議の末、NASAは米国政府の軌道上デブリ低減標準プラクティス(ODMSP)を更新しました。最後のODMSPは、2007年の中国による人工衛星破壊(ASAT)実験や2009年のイリジウム33号とコスモス2251号の衛星衝突事故より前の2001年に公布されたものでした。それは、主に静止地球軌道における宇宙の商業利用が行われた時代でした。新しい宇宙を利用したリモートセンシング(遠隔測定)ビジネスを切り開いた、2003年の米国リモートセンシング政策より前に、66個の衛星から成るコンステレーションや少数の地理空間プラットフォームを活用し、再び注目を浴びたイリジウムビジネスは除外されていました。また、それは衛星の運用経験があったのが、現在の半分の約40か国に過ぎない時代でもありました。

ODMSPは、米国政府の衛星オペレーターである、航空宇宙局(NASA)、米国海洋大気庁(NOAA)、米国地質調査所(USGS)、国防総省、インテリジェンス・コミュニティーを対象としていますが、標準プラクティスは民間オペレーターの規制にも組み込まれ、米国の管轄下にあるすべての宇宙機に適用されるルールとなります。しかしこのプラクティスは、1つの国だけが遵守してもそのグローバルな有効性はないので、世界の模範的運用基準として採用する必要があるのです。現在米国は、国際機関間スペースデブリ調整委員会(IADC)、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)、2国間および多国間の協議を通じて、最新のプラクティスを採用するよう国際社会を説得するという困難な任務にあたっています。2019年版のODMSPには、「ODMSPは、他の国内外のオペレーターに、効率的かつ効果的な宇宙安全利用を促進するための参照となる」とあります。

ODMSPを更新する必要があったのはなぜでしょう?

過去20年間にわたり、軌道での活動が盛んになり、軌道の混雑状態が劇的に進んだことにより、政策措置が必要となり、米国は2010年に初めて国家宇宙政策を打ち出しました。そして2018年に、国家宇宙交通管理政策で制定された宇宙政策大統領発令第3号(SPD-3)が出されました。 SPD-3は現在のガイドラインに関する懸念を明確に示し、ODMSPが「軌道上のデブリの増加を制御するには不十分」であり、「21世紀に期待する幅広い宇宙運用の安全確保のためには、米国は標準プラクティスの新しいプロトコルを開発する必要がある」と述べています。それには、「大規模コンステレーション、ランデブ、近接運用、小型衛星、およびその他の種類の宇宙運用における運用プラクティス」が含まれます。

標準プラクティスにおける新しいプロトコルを開発することを目的として、正確に、ODMSPの何が改定されたのでしょう?以下に、重要な項目を記します。

  • 最新版はより実証や経験に基づいて提案されています。多くの要素が定量的、確率的に言及され、信頼性の限界についても言及されているため、コンプライアンスを評価するためのより明確な方針を生み出しています。
  • 100オブジェクト年の概念を導入しています。一見、この計算は分かりにくく思えるかもしれません。しかし、NASA標準8719.14Bのセクション4.3.4.3(2019年更新)で詳しく説明されており、どのように使用されるかを明確にしています。地球低軌道(LEO)にあるデブリの数と、近地点にあるとき、自然に軌道を離脱して大気圏に突入するまでの時間の長さから割り出された数です。新しいODMSPでは、100オブジェクト年というこの概念が、予想されるデブリの生成で、1U(44mm)サイズの小型衛星よりも小さいものに適用されます。オペレーターが4つのデブリを排出することを計画している場合、25年以内に地球の大気圏に再突入できる近地点でこれを行う必要があります。オペレーターが1kg以下の超小型衛星100基の打ち上げを計画している場合、適切な高度(この場合は国際宇宙ステーションよりはるかに低い高度)から1年以内にすべてのオブジェクトの軌道離脱をさせる必要があります。
  • ミッション終了後の処分方法におけるオプションを広げ、再調整しています。2001年のODMSPには、ミッション終了後に宇宙機を処分する際に考えられる3つの主要なオプションがありました。大気圏への直接再突入、墓場軌道への移動、または直接回収です。直接再突入と日心軌道や地球軌道から外れた軌道への投棄について最初に記載されています。そして大気圏再突入、LEOと静止地球軌道(GEO)間や、GEOより高軌道への移動、およびミッション終了後5年以内の直接回収について述べられています。廃棄における信頼度の最低値は90%に設定されており、99%以上を目標としています。
  • 宇宙運用の各分野におけるプラクティスを設けています。大型コンステレーション、小型衛星、ランデブ、近接作業と操作、およびデブリ除去(ADR)について新たに言及されています。こういった分野のプラクティスには、事故的な衝突、爆発、分裂を最小限に抑えることが含まれます。ただし、100基以上から成る大規模コンステレーションには直接突入による廃棄が適しているといった、より詳細に記されている項目がいくつかあります。これは、90%以上の信頼性を持って実行する必要があります。

2019 年版ODMSPは2001年版と比較するといかがでしょうか?

従来の衛星に適用しているものと同じ主要プラクティスを採用して、新しい軌道活動について言及しています。さらに、判断が困難な項目は制限を数値で示し、オペレーターが期待されている信頼度の最小値を超えられるように促しています。重要な最終条件は、米国政府が必要に応じてこれらのプラクティスを更新および改定して行くことです。

まだ検討すべき項目があるので、追加の改訂の余地を残しておくのは良いことだと思います。まず、ODMSPは衛星が計画通りに運用された場合のみに適用されます。衛星に設計上の欠陥があった場合、つまり衛星に何らかの異常が発生し、廃棄要件を満たすことができない場合、ODMSPは適用されません。こういった不足部分を埋め、オペレーターに機能しなくなった宇宙機(ロケットと衛星)を軌道に残した場合に起こりうる結果を考慮することを義務付ける必要があります。こういった類のデブリは最も大きな危険になる可能性があるため、別の廃棄基準を設けることを強く推奨します。

さらに、軌道離脱までの時間は変わらず、最長25年のままです。民間の宇宙業界では、5年またはできるだけ早い実施の基準を設け始めています。この件について、さらなる議論が必要なのは明らかです。より経験や実証に基づいたアセスメントを重視していることを考えると、軌道離脱までの時間枠による影響をより正確に判断するために、外部の専門家を交えて研究を進める必要があります。

最後に、NASAは米国政府内でこれらのプラクティスへ準拠しているかを追跡する必要があり、規制機関はそのデータを一般に公開し、民間団体に対しても同じことを行う必要があります。このような透明性は、ベストプラクティスへの遵守に関して国際社会を統率し、最近採択された国連によるCOPUOSの長期持続可能性ガイドラインの実現につながるのです。コンプライアンスがなければ、これらの標準プラクティスは目標として設定された効果を達成しません。

ODMSPや、IADCや国連COPUOSに由来する現在適用されている他のプラクティスは、現在の知識で示せる範囲で、宇宙の持続可能性を維持するために最低限必要なものです。スペースデブリが増えると宇宙環境にどのように影響するかは正確にはまだ分かりません。それらは操作できるのか?軌道上で破壊することがあるのか?衝突を回避するために、宇宙状況を把握し、安定した交通管理を実現できるか?ベストプラクティスに当てはめられるか?といったことも分からないのです。

さらに、デブリが衝突すると、より混雑した環境でより甚大な被害を及ぼします。衝突が起きる可能性は低いかもしれませんが、起きればその影響は計り知れません。今日の最先端技術は、衝突の可能性を最大7日間という不十分な精度で予測します。差し迫った衝突を緩和するための解決策を練り上げるのにそれは十分な時間ではありません。宇宙環境の修復、つまり大きな被害を及ぼしかねない大型デブリの除去については、補足されるべき必要要素です。SPD-3は、「アメリカ合衆国は、主要な軌道領域での飛行操作の安全性を確保するために必要な長期的アプローチとして、ADR(デブリ除去)に取り組んで行く。この取り組みは、現行のプログラムと関連したデブリ緩和の国際プロトコールを推進し続けることを損ねるものではない。」という最新ODMSPの記載についての考察のすぐ後で、この件に言及しています。

現在必要とされているのは、世界の宇宙業界全体における、安全とコンプライアンスの文化であり、これを達成するために活用できる機会がたくさんあります。宇宙安全連合による宇宙運用の持続可能性のためのベストプラクティス世界経済フォーラムの宇宙持続可能性評価などの取り組みは、異常が発生した際に不要となったものを処分できるような宇宙機の設計といった別のプラクティスも打ち出し、宇宙飛行の安全性の最低ラインを押し上げ、さらに超える傾向を明確に示しています。

宇宙環境は、混雑と軌道のリスクへの階段をまっしぐらに上っています。すべてのオペレーターは、標準プラクティスに従うより超えることを目指し、宇宙に痕跡を残さないようにするために積極的に取り組む必要があります。