アストロスケールの商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」、一度目のデブリの周回観測を実施
アボートにより衝突回避機能の有効性を実証
持続可能な宇宙環境を目指し、スペースデブリ(宇宙ごみ、以下、デブリ)除去を含む軌道上サービスに取り組む株式会社アストロスケールホールディングス(本社:東京都墨田区、代表取締役社長兼CEO 岡田光信)の子会社で人工衛星システムの製造・開発・運用を担う株式会社アストロスケール(本社:東京都墨田区、代表取締役社長 加藤英毅、以下「アストロスケール」)はこの度、今年2月に開始した商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(アドラスジェイ、Active Debris Removal by Astroscale-Japan の略)」のミッションにおいて、観測対象のデブリの周回観測の実施中に行われた自律的なアボート※1により、安全運用のための衝突回避機能の有効性を実証したことをお知らせいたします。
運用を終了した衛星等のデブリは非協力物体※2と呼ばれ、外形や寸法などの情報が限られるほか、位置データの提供や姿勢制御などの協力が得られません。そのため、その劣化状況や回転レートなど、軌道上での状態を把握しつつ当該デブリに安全・確実にRPO※3(ランデブ・近傍運用)を実施することは、デブリ除去を含む軌道上サービスを提供するために不可欠な技術です。ADRAS-Jは実際のデブリへの安全な接近を行い、近距離でデブリの状況を調査する世界初※4の試みです。具体的には、大型デブリ(日本のロケット上段:全長約11m、直径約4m、重量約3トン)への接近・近傍運用を実証し、長期間軌道上に存在するデブリの運動や損傷・劣化状況の撮像を行います。
この度実施した周回観測は、デブリの状態や動きについてより詳細に把握するためのものです。一定の距離を保ちながら物体の周りを飛行するという、RPOの中でも非常に高度な技術です。ADRAS-Jの周回観測の運用では、位置や姿勢の制御にADRAS-J搭載のLiDARとアルゴリズムを駆使し、観測対象のデブリの周囲を約50mの距離を維持して飛行しながらその画像を連続して撮影します。今回、ADRAS-Jはデブリの周囲を安定して飛行しながら撮影していましたが、デブリの周囲を1/3程度(約120度)周回したところでデブリとの相対姿勢制御の異常を検知し、自律的にアボートしました。結果としてADRAS-Jはデブリから一旦待避しています。
デブリ除去や衛星の寿命延長を含む軌道上サービスでは、除去や寿命延長等の対象となるデブリや衛星に安全に接近、必要に応じて捕獲する技術がサービスの基盤となります。ADRAS-Jでは運用において安全性を最も重要視しており、下記のように、RPOのどの過程においても対象物との衝突を避けられるように安全な設計となっています。
- 衛星が自身の内部の異常や対象物体との相対距離や姿勢の異常を検知し、対策を施すシステムFDIR※5設計を採用
- システムFDIRにより異常を検知した場合、対象物体との距離が特定の距離より近い場合は対象物体との衝突を回避するためアボートマヌーバを実施
- 複数種類のアボートマヌーバを状況や軌道(位置関係や向き等)に応じて使い分け
今回実施されたアボート機能も、安全にRPOを行うためにアストロスケールが設計したものです。これにより、ADRAS-Jが観測実施中、つまり非協力物体の周囲を飛行しながらでも、安全を確保できることが実証されました。 ADRAS-Jの開発では膨大な数のシミュレーションを実施し安全性を検証してきましたが、軌道上にて設計通りに自律的アボートマヌーバが実施されたことにより衝突回避機能の設計の正しさを確認しました。今回のアボートによる衛星への影響はなく、健全性を保っています。相対姿勢制御異常の原因は判明しており、対策を行い、現在は再接近の準備を進めています。
これまでのADRAS-Jミッション運用実績
- 2月18日:Rocket LabのElectronロケットにより打上げ
- 2月22日:デブリへの接近を開始
- 4月9日:相対航法(AON※6)と近傍接近を開始
- 4月16日:相対航法(MMN※7)を開始
- 4月17日:デブリの後方数百mへの接近に成功
- 5月23日:デブリ後方約50mへ接近に成功
- 5月23日:定点観測(1回目)を実施
- 6月17日:定点観測(2回目)を実施
- 6月19日:周回観測(1回目)を実施
軌道上サービス、そして宇宙の持続可能性(スペースサステナビリティ)の基礎を築く本ミッションの進捗は随時ご案内してまいります。今後の最新情報にご期待ください。
※1アボート:クライアントに対する衝突を回避するためマヌーバを実施し安全な距離まで待避すること ※2非協力物体:接近や捕獲・ドッキング等を実施されるための能力・機器を有さない物体のこと ※3 RPO:Rendezvous and Proximity Operations Technologiesの略称。ランデブ・近傍運用 ※4 過去に同様のミッションが実施されたか否かを自社で調査(2024年6月) ※5 FDIR:Failure Detection Isolation and Recoveryの略称 ※6 AON:Angles-Only Navigationの略称。デブリの方角情報を用いる相対航法 ※7 MMN:Model Matching Navigationの略称。デブリの形や姿勢の情報を用いる相対航法
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商業デブリ除去実証について
大型デブリ除去等の技術実証を目指す商業デブリ除去実証は、深刻化するデブリ問題を改善するデブリ除去技術の獲得と、日本企業の商業的活躍の後押しの二つを目的とする JAXAの新しい取り組みです。除去効果が大きい日本由来の大型デブリの除去を2段階で実施します。フェーズⅡでは、フェーズⅠと同様にデブリへの接近、近傍制御を行い、更なる映像を取得。そしてデブリを捕獲、降下させ、デブリ除去技術の軌道上実証を行います。フェーズⅠに続き、JAXAから技術アドバイス・試験設備供用・研究成果知財提供を受けて実施します。
商業デブリ除去実証ウェブサイト:https://www.kenkai.jaxa.jp/crd2/project/
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アストロスケール について
アストロスケールは、宇宙機の安全航行の確保を目指し、次世代へ持続可能な軌道を継承するため、全軌道における軌道上サービスに専業で取り組む民間企業です。 2013年の創業以来、軌道上で増加し続けるデブリの低減・除去策として、衛星運用終了時のデブリ化防止のための除去、既存デブリの除去、寿命延長、故障機や物体の観測・点検など軌道上サービスの実現を目指し技術開発を進めてきました。また、長期に渡り安全で持続可能な宇宙環境を目指す為、技術開発に加え、ビジネスモデルの確立、複数の民間企業や団体、行政機関と協働し、宇宙政策やベストプラクティスの策定に努めています。本社・R&D拠点の日本をはじめ、英国、米国、イスラエル、フランスとグローバルに事業を展開しています。
アストロスケールウェブサイト:https://astroscale.com/ja/