アストロスケール、ESAと規模80万ユーロの衝突回避マヌーバ能力強化研究契約を締結 低軌道の衛星急増に備え、GMV・OneWebとも連携し研究​ ​

2022年3月10日 投稿ニュースで投稿

持続可能な宇宙環境を目指し、スペースデブリ(宇宙ごみ、以下、デブリ)除去サービスを含む軌道上サービスに取り組む、株式会社アストロスケールホールディングスの子会社であるアストロスケール英国(本社:ハーウェル、社長:ジョン・アーバン、以下「アストロスケール」)と欧州宇宙機関(ESA)は本日、混雑する低軌道における衝突回避マヌーバ機能の強化研究に向けた契約を締結したことを発表いたします。 また、本研究は、GMV社(本社:マドリード、社長:Mónica Martínez Walter、以下「GMV」)及び、OneWeb Ltd. 社(本社:英国ロンドン、CEO: Neil Masterson、以下「OneWeb」)と連携して行ってまいります。

今後10年間で、数万機規模の衛星が地球低軌道(LEO)に打ち上げられると試算されており、宇宙空間はさらに混雑していきます。このような衛星を活用した通信の急激な増加により、稼働中の衛星と運用終了後の衛星の壊滅的な衝突が起こる可能性が懸念されています。

本契約は、ESAの宇宙安全プログラムにおける「衝突リスク推定・自動緩和(CREAM、Collision Risk Estimation and Automated Mitigationの略)活動」の一環である、衝突回避研究「CREAM 2」の主導者として、アストロスケールが選定され、締結したものです。CREAM活動は、軌道上の衝突の可能性をより正確に判断し、回避マヌーバの決定から近接近までの時間を短縮することで誤検知による警告の回数を減らし、回避マヌーバ計画を最適化して衛星にアップロードできる、自動化システムの技術開発を目的としています。規模80万ユーロのCREAM 2の研究では、不要な回避マヌーバによる時間とリソースを節約できるよう、衝突回避の判断、そしてコマンドパスをなるべく遅らせて送受信することを推奨します。アストロスケール主導の専門家チームは、衛星間通信、大規模な地上局ネットワーク、搭載機器の処理を可能とする地上とのデータ手段などの革新的なツールを使用して、警告から衝突の可能性までのタイムロスを減らすコンセプトの開発に取り組む予定です。

この研究の過程で、アストロスケールはポルトガル、英国、ルーマニアのGMV社チームと提携し、搭載システムや地上との通信による衝突回避プロセスと情報共有システムに関する専門知識を蓄積していきます。さらに、OneWebは、大規模な衛星コンステレーションの衝突回避を管理する方法や課題に関する専門知識と知見を共有する予定です。 

アストロスケールで欧州における将来の事業計画策定の責任者であるジェイソン・フォーショーは以下のように述べています。 「今後10年間で、何千もの衛星が軌道に投入されることが予想されます。このため、衛星の位置を適切に調整し、今後大幅に増加するであろう衝突警告を効率的に処理することが、宇宙交通管理(Space Traffic Management:STM)の大きな課題となります。CREAM 2の研究において、アストロスケール、それにパートナーであるGMVとOneWebは、自律型衝突回避システムの開発を開始し、衛星が衝突回避操作を行う方法とタイミングをより明確にできるでしょう。私たちは宇宙機を安全に、そして運用者の衝突回避コストを削減したいと考えています。」​ ​

アストロスケールは2021年、デブリ除去技術実証衛星「ELSA-d (エルサディー、End-of-Life Services by Astroscale – demonstrationの略)」を、すでに大規模な衛星コンステレーションが運用されている高度550kmへ打上げ・軌道投入しました。また並行して、軌道上ミッションで役目を終えた複数の人工衛星を除去する衛星「ELSA-M(エルサ・エム、End-of-Life Services by Astroscale – Multi clientの略)」の捕獲機(サービサー)も2024年以降の軌道上実証に向けて準備を進めています。本研究では、ELSA-Mの軌道上実証機を使って、CREAM 2プログラムで開発するソリューションの性能検証も実施します。 

アストロスケールのエンジニアリングディレクターであるスティーブン・ウォクスは、以下のように述べています。 「当社のELSA-M捕獲機には、各種通信オプションの搭載、高敏捷性をもつ推進系、優れた搭載機器処理能力、洗練された地上システムなど、さまざまな機能を備えています。これらは、この数年間の革新的な新しい衝突回避技術の実証に役立つでしょう。」​ ​

GMV航空宇宙部門航空システム/ロボット工学戦略・ビジネス開発業務執行取締役、マリエラ・グラツィアーノ氏は、以下のように述べています。 「今回のCREAM 2のパートナーシップは、GMVの戦略的ロードマップにとって重要であり、アストロスケールとOneWebとの長年にわたるパートナーシップを強固にするものです。また、CREAM 1プログラムでのリーダーシップ含め、ESAの宇宙安全プログラムで過去10年間に30以上のプロジェクトを展開しているGMVにとっては、 同プログラムにおける新たな成功例でもあります。CREAM 2については、ポルトガル、英国、ルーマニアのGMVチームと協力し、衝突回避サービスとその運用、ミッション運用の地上システム、搭載システム、自律化定義、および開発に関する幅広い専門知識を共有します。地上システムや搭載機上で活用できる、自律型衝突回避のための革新的なソリューションを開発することで、近い将来、宇宙での安心、安全、持続可能な運用が担保されるでしょう。」​ ​​ ​ ​ ​

ESA宇宙安全プログラムのシニア衝突回避アナリスト兼CREAMコーディネーター、クラウス・メルツ博士は、次のように述べています。 「CREAM 2の枠組みでは、自律衝突回避技術の開発により、マニュアル操作介入の削減を目指しています。このため、我々は、堅牢な判断基準とマヌーバ設計、探査機のオペレータ間の調整方法の改善、そして、宇宙機へのアクセスを遅くすることで保証される方法について調査研究を開始しました。これにより、宇宙機の運用者や分析担当等、人の判断による調整を遅らせ、誤警告を減らすことができるようにします。CREAM 2の活動を通し、強力なチームと形成できたことを嬉しく思います。日頃より、規模、複雑性、自動化レベル等さまざまな種類の宇宙機や地上セグメントを運用する、革新的で経験豊富なパートナーたちです。」​ ​

アストロスケール主導の研究チームは、地上局ネットワークの拡大、データ中継、ESAによる衛星測位サービスシステム「ガリレオ」の利用など、衛星にコマンドをアップロードするための新たな選択肢となる方法を検討します。また、 全地球航法衛星システム(GNSS)センサデータを使用した衛星のオンボード処理をはじめ、あらかじめ設定される推進マヌーバや回避マヌーバ計算など、データ処理の革新的な技術についても検討していきます。同研究は2023年半ばに完了し、衝突回避コマンドの遅延を可能にする、最も実行可能な解決策について推奨案を提示する予定です。 

「CREAMの枠内で、必要な手動介入を減らすための自動衝突回避技術の開発を目指しています」と、CREAMの上級衝突回避アナリスト兼コーディネーターであるESAのクラウスメルツは述べています。 「したがって、私たちは、堅牢な決定基準と操縦設計、宇宙船のオペレーター間の調整のための改善された手段、および宇宙船への遅いアクセスを保証する方法を調査する研究を開始しました。これにより、人間のオペレーターとアナリストの後での関与を可能にし、誤警報を減らします。」 

 

ESAの「CREAM」についてはこちら: https://www.esa.int/Safety_Security/Space_Debris