アストロスケール、ELSA-dミッションにおいて軌道離脱制御の運用を終えミッションを完了
捕獲やRPOなど、軌道上サービスに必要な主要技術の実証に成功
持続可能な宇宙環境を目指し、スペースデブリ(宇宙ごみ、以下、デブリ)除去を含む軌道上サービスに取り組む株式会社アストロスケールホールディングス(本社:東京都墨田区、創業者兼 CEO 岡田光信)はこの度、デブリ除去技術実証衛星「ELSA-d (エルサディー、End-of-Life Services by Astroscale – demonstrationの略)」のミッションにおいて、運用可能なスラスタを使用した捕獲機(サービサー)の軌道離脱制御の運用を終え、この先駆的ミッションを完了したことをお知らせいたします。サービサーは現在高度約500kmの軌道を周回しており、およそ3年半の年月を経て大気圏に再突入し、燃え尽きます。これは、運用終了後の破棄期限として参照される25年という期間内に十分収まるものです。模擬デブリ(クライアント)はスラスタ等での操縦機能を持たないため、 今後5年で自然に軌道を離脱していくと予測されています。
ELSA-dは、地球低軌道(LEO)において軌道上サービスに必要な主要技術を実証する民間で初のミッションでした。本ミッションでは、軌道上で非協力物体に対するRPO(ランデブ・近傍運用)と捕獲を安全に行えるよう設計されたサービサーと、本実証においてデブリの役目を担うクライアントという2機の衛星からなり、2021年3月、これらが固定された状態でカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられました。
ELSA-d は軌道上で、磁石を活用した捕獲機構を用いたクライアントの捕獲や、誘導接近等の実証に成功しました。最初の実証では、クライアントをサービサーから切り離し、その後捕獲を実施。当実証フェーズを通じて、 捕獲機構やさまざまなランデブーセンサおよび運用手順の有効性を確認しました。
その後、サービサーからクライアントを再度分離し、サービサー搭載のセンサを駆使して自律的な軌道維持アルゴリズムによってクライアントから30mの距離を維持することに成功。この重要な機能の実証を7時間以上にわたり成功させました。その後、衛星の状態に異常を検出し、サービサーに搭載の8つのスラスタのうち4つの機能を喪失しましたが、残りの4つを使用し、クライアントへの接近(ランデブ)の運用を成功させました。これにより、遠距離からの物体の観測および追跡、非制御物体へ誘導接近、絶対航法から相対航法への切替えなどの技術が実証されました。これらは、RPOそして軌道上サービスの実現に必要不可欠な技術です。この実証は、民間で前例のない低軌道上ミッションとなりました。
ELSA-dミッションにおいて、下記を含む軌道上サービスのための主要技術が実証されました。
- 自律制御機能と航法誘導制御アルゴリズム
- 航法センサ群を駆使した閉ループ制御
- スラスタによる自律的な接近マヌーバおよび姿勢制御
- 絶対航法の技術(GPSと地上観測)を活用したサービサーの誘導航法(クライアントから約1600kmの距離から約160mへの接近)
- 絶対航法から相対航法への移行(サービサー搭載の航法センサを活用)
- 2年以上にわたる軌道上での衛星稼働実績およびミッション運用実績
また、この先駆的な技術実証となったELSA-dミッションは宇宙の持続可能性(スペースサステナビリティ)や軌道上サービスの実現への道を切り拓くことで、米宇宙業界誌Via Satelliteの「2021 Satellite Technology of the Year」や内閣府主催第5回宇宙開発利用大賞の「内閣府特命担当大臣(宇宙政策)賞」、国際宇宙航行連盟(IAF)の「IAF Excellence in Industry Awards 2023」を含む数々の賞を受賞しています。さらには、同ミッションはアストロスケールが2022年にTIME誌の「世界で最も影響力のある100社(TIME 100 Most Influential Companies)」やFast Companyの「2022年版 最も革新的な宇宙企業10社(The 10 most innovative space companies of 2022)」に選出される上でも重要な役割を果たしました。
アストロスケールチーフエンジニア ジーン・藤井のコメント 「軌道上で異常を検出するという障壁もありましたが、高難度な捕獲機能と、軌道上サービスに必要不可欠なRPO技術を実証することができました。パートナーやサポーターの皆様のご尽力に感謝申し上げるとともに、アストロスケールのチームを誇りに思います。次は、軌道上に存在する大型デブリへの接近とその状態の調査を行う商業デブリ除去実証衛星ADRAS-J(アドラスジェイ、Active Debris Removal by Astroscale-Japan の略)の打上げを控えており、そのミッションの開始を心待ちにしています。」
ELSA-dで得られた知見は、今後予定しているADRAS-J等のミッションに活用していきます。ADRAS-Jはニュージーランドのマヒア半島にあるRocket Labの第1発射施設(Launch Complex 1)での打上げを予定しており、同社のロケット「Electron(エレクトロン)」による打上げ・軌道投入後、非協力物体の大型デブリ(日本のロケット上段:全長約11m、直径約4m、重量約3トン)への接近・近傍運用を実証し、その運動や損傷・劣化状況の撮像を行います。本ミッションは、実際のデブリへの安全な接近を行い、デブリの状況を明確に調査する世界初の試みです。運用を終了した衛星等のデブリは、外形や寸法などの情報が限られるほか、位置データの提供や姿勢制御の協力が得られません。そのため、RPOにより物体に安全かつ正確に接近することは、デブリ除去を含む軌道上サービスを提供するために必要不可欠です。